介護のお金って子どもが負担しなきゃいけないの?知らないと損する介護のお金事情
「親の介護の費用負担ができるか心配…」と考える人もいるでしょう。しかし、介護のお金を負担する余裕がない場合に利用できるサービスがあります。まずはこれらのサービスを知り、いざという時に活用できるように準備しておくことが大切です。
この記事では、介護でかかる費用、介護の負担が軽減できるサービス、介護が始まる前にやるべきことについて説明します。
この記事のまとめ
- 介護では介護保険サービスの自己負担分、オムツなどの消耗品、医療費などの負担が発生する。
- 子どもには親の面倒をみる扶養義務があるが、自分の生活が最優先。
- 高額介護サービス費、特定入所者介護サービス費など介護のお金の負担軽減になる制度を活用できる。
- 介護が始まる前に、親の財産を把握したり、どんなサービスを受けたいかなど確認するのが大切。
【目次】
- そもそも介護に必要なお金とは?
- 親の介護のお金は子どもが負担するの?
- 介護のお金の負担軽減になる制度
- 親の介護のお金を巡ってトラブルにならない方法
- 現役ケアマネジャーの筆者が体験した親の介護のお金問題
- まとめ
そもそも介護に必要なお金とは?
親が要介護状態になれば、その分お金が必要になります。しかし具体的にどのようなお金がどれくらい必要なのか、はっきり分からないまま不安に思っている方も多いのです。
ここでは介護に必要なお金について確認します。漠然としていたものが明確になるだけで、きっと安心につながるでしょう。
介護保険サービスの自己負担分
訪問介護やデイサービス・特別養護老人ホームなど、公的な介護保険サービスを利用する場合、利用者が料金の1割を自己負担します。それを介護保険の自己負担額といい、所得によっては2割や3割負担の場合もあるのです。
介護が始まった直後は、住宅改修や福祉用具購入などの介護保険サービスを使う場合が多くみられます。これらは一旦全額立て替える償還払いのため、一時的にお金が必要になるのです。生命保険文化センターが2021年に行った調査によると、一時的な費用は平均で74万円ほどとなっています。
また公的な介護保険サービスの自己負担分を含めた、月々の介護に必要なお金は平均で約8.3万円です。これらは自宅や入所施設といった介護を受ける場所や、要介護度によって変わります。自宅より入所施設・要介護度が高いほど、金額があがる傾向です。
参考:生命保険文化センター 「2021年(令和3年)度 生命保険に関する全国実態調査」https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/2021honshi_all.pdf
消耗品代や日常生活費
介護には、おむつやリハビリパンツ・尿取りパッドなどさまざまな物品が必要です。使う人の状態にもよりますが、たとえ少額であったとしても長い目で見れば負担がかかります。
おむつ代の助成金を出している自治体もありますが、条件や支給方法もそれぞれで分かりにくいため、申請をせずに終わっている世帯も少なくありません。
そのほかには、状態に合った衣服や靴の用意・寝具を汚さないための防水シーツ・食事・定期的な理美容代などが必要です。
また認知症の場合、家にあるのを忘れて何度も同じものを買ってきたり、騙されて高額な商品を買ったり必要のないものにお金を払ってしまうリスクも伴います。
医療費
介護が必要になり介護保険サービスを使うためには、漏れなく医療費が必要です。要介護認定を受けるには、主治医の意見書が必要なため多かれ少なかれ病院にかからなくてはなりません。
また介護が必要な理由にもよりますが、要介護状態の方が病院にかかると送迎や付き添いが必要になる場合もあるのです。
診察代が薬代のほかに、タクシー代が必要だったり家族が行けない場合に保険外サービスで付き添いをお願いしたり、医療費以外にも通院にお金がかかります。
親の介護のお金は子どもが負担するの?
子どもには親の面倒をみる義務があると法律で定められ、これを扶養義務といいます。
しかし扶養義務があるからといって、必ずしも介護のお金を子どもが負担しなければならないわけではありません。経済的に余裕がない場合、お金の援助ができなくても罰せられるようなことはありません。
ここまで立派に育ててくれた親本人に「あなたの介護のためのお金をください」とはなかなか言いにくいでしょう。しかし「少しくらいなら良いか」と思って負担したら想像以上に長期間となり、負担が莫大な金額になる場合も考えられます。
介護はいつまで続くか分かりません。自分の生活を犠牲にしてまでお金を負担すると、共倒れになる可能性もあります。無理な援助は避け、別の方法を考えるのが賢明です。自分達の生活を守る選択をしましょう。
介護のお金の負担軽減になる制度
親の介護のお金を負担してもしなくても、親自身が高齢となればお金の管理も子どもが行わなくてはならなくなります。介護に必要なお金のなかには、お金の負担を軽減する制度もあるのです。
しかし制度自体を知らずに活用していないケースが多くあります。ここでは介護に必要なお金の負担を、軽減する制度などを紹介します。
高額介護サービス費
介護保険サービスの費用は、所得に応じて毎月の負担の上限が決められています。この高額介護サービス費は、1カ月の間その上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。
住宅改修や福祉用具の購入費などは、高額介護サービス費の対象にはなりません。また食費・住居費・医療費なども対象外となっています。高額介護サービス費の給付を受けるには、市区町村の窓口へ申請が必要です。
参考:厚生労働省 「高額介護サービス費の負担額見直し」
https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
参考:厚生労働省 「介護サービス情報公表システム」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
特定入所者介護サービス費
特定入所者介護サービス費は、特別養護老人ホームなどの介護保険施設などに入所し、所得が低い方を対象に食費や居住費の負担を軽くする制度です。
介護保険の施設サービスでは食費や居住費は自己負担ですが、自己負担分を超えた場合には介護保険から支給されます。特定入所者介護サービス費の給付を受けるには、負担限度額の認定を受けなければならないため市区町村の窓口に申請が必要です。
参考:厚生労働省 「介護サービス情報公表システム」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
介護保険に関する税金の控除
税金の控除になるものもさまざまです。たとえば所得税や住民税と同様、介護保険料も社会保険控除の対象となります。また訪問看護や介護医療院などの医療系サービスは、医療費控除の対象になる場合があるでしょう。
寝たきりで治療上おむつの使用が必要な要介護認定を受けた者は、医師が発行するおむつ使用証明書があれば、おむつ代にかかる医療費控除が受けられます。
また申請により障害者控除対象者認定書を受けた要介護認定者は、障害者控除または特別障害者控除の対象です。
その他医療費の負担を減らせる制度
医療費が1カ月の上限を超えた場合、払い戻しを受けられる高額療養費制度があります。申請から約3カ月後の払い戻しのため、支払いが困難な場合は高額医療貸付制度を利用し8割ほどを無利子で借りるのも可能です。
また同一世帯において、医療費と介護保険の自己負担分が上限を超えた場合、超過分が払い戻される高額介護合算療養費制度もあります。
いずれも所得や年齢に応じて上限が決められています。一定条件を満たせば医療費が無料になる制度がある市町村もあるため、住まいのある役所に問い合わせてみるとよいでしょう。
高額医療費貸付制度 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会 (kyoukaikenpo.or.jp)
参照::厚生労働省 「高額介護合算療養費制度」
高額介護合算療養費制度|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
親の介護のお金を巡ってトラブルにならない方法
介護に必要なお金に関する情報を知っているだけでは、いざ介護が始まったときお金にまつわるさまざまなトラブルを回避できない場合があります。
ここでは親の介護のお金を巡って、トラブルが起きない方法を確認しましょう。
親に介護が必要になったらどうするか事前に家族間で話し合っておく
親が元気なうちに、介護が必要になったらどうするか話し合っておくのは非常に重要です。そのさいにどこから介護のお金を賄えばよいのか、親に確認しておけばいざ介護が始まっても焦る必要がなくなります。
介護が必要になったらどう生活したいか・最期はどう迎えたいかなど、お金以上に大切な親自身の意向も、このときに聞き取っておきましょう。
親のお金事情を把握しておく
事前に親のお金事情を把握しておくのがおすすめです。貯金がどれだけあるか・家のローンは完済しているのかなど、把握しておきましょう。
いずれは子どもが親のお金を管理しなければならなくなります。おかしなトラブルに巻き込まれないように、ある程度の認知症レベルになったらお金の管理は子どもがするなど、この時点で決めておくのがおすすめです。
認知症や寝たきりになり意思決定が困難になった場合も考えて、事前にできることをしておけば後々楽になるでしょう。
介護サービスについてあらかじめ調べておく
介護サービスについて予め調べるのも非常に重要です。できるだけ住み慣れた自宅での生活を継続するなら、家の近くの介護サービスを調べておきましょう。訪問介護などの介護保険サービスから、保険外のサービスまでさまざまあります。民生委員の確認もしておく必要があります。
どうやって調べてよいか分からない場合は、地域包括支援センターに確認するのがおすすめです。地域包括支援センターは、地域に住む高齢者の生活をサポートするための相談・支援窓口なので、適切なアドバイスをもらえるでしょう。
現役ケアマネジャーの筆者が体験した親の介護のお金問題
「父親のケアマネジャーを担当してほしい」
ある日事務所に電話をかけてきたのはAさんの息子さんBさんでした。BさんはAさんと離れて住んでいたため、どうしたらよいか分からず困っていたところ、たまたま目に留まった事務所の看板の電話番号に連絡したようです。
Bさんは県外に住んでおり仕事があるため、長い期間こちらに滞在するのは難しいとのこと。父親のお金事情も分からなかったため、限られた期間で口座などの確認や介護保険の新規申請・暫定での介護サービスの開始などを、私と一緒に行いました。
県外からすぐに駆け付けたり細々としたお金の管理を行ったりするのも難しいため、権利擁護支援団体を提案し契約していました。
県外の自宅に帰るとき「こんなにバタバタしてしまって、元気なうちから父と話し合っておけばよかった」と漏らした言葉が今でも印象に残っています。
このような場面を目の当たりにして、簡単な知識を得ておいたり、元気なころに話し合ったりしておくのがどれほど大切なのかが分かりました。
まとめ
増税・物価上昇などで生活が厳しいこのご時世では、親に介護が必要になっても費用を負担できない子ども世代も多いでしょう。子どもは親の面倒をみる義務があります。しかし経済的に余裕がない場合は、子どもが介護の費用を負担する必要はないのです。
またいざ介護が必要になった場合に焦らないよう、親が元気なうちに話し合いの場を設けておくとよいでしょう。さまざまな制度を活用しながら、親と子どもそれぞれの生活を大切にできるように行動するのが大切です。
まずは話だけでも聞きたいと思う場合は、ぜひ気軽に問い合わせてみましょう。話せば案外簡単に解決するかもしれません。